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DJWシンポジウム2023: 未来の持続可能な都市の構想と計画

今年も東京都で日独産業協会(Deutsch-Japanischen Wirtschaftskreis:DJW)のシンポジウムが開催されました。シンポジウムは衆議院の会議室で行われ、今年はEnobyteメンバーの7名が参加してきました。今年5月にミュンヘンで開催されたシンポジウム同様「スマートシティ」の実現と様々なコンセプトの共存がテーマとして取り上げられ、賢い資源の利用計画によるスマートシティと持続可能性が話題の中心となりました。

シンポジウムはDJW理事長のゲアハルト・ヴィースホイ氏の開会ならびにドイツ連邦共和国大使館の大石式部氏からの挨拶により始まりました。続く基調講演では、三菱地所株式会社の後藤泰隆氏が、東京駅周辺の開発プロジェクト「大丸有」についてビデオを用いながら視覚的に分かりやすく紹介してくださいました。「大丸有」とは、大手町、丸の内および有楽町それぞれの頭文字をとって作られた通称であり、この大丸有エリアには数多くの大手外資企業が集うため、日々何千人もの人々がここで働いています。三菱地所は大丸有コンソーシアムと共に、数年前から日本のスマートシティの実現に取り組んでいるとのことでした。

この活発かつ革新的な取り組みにより、大丸有エリアは日本を代表する自己管理型スマートシティエリアとなりました。アプリを使ってイベント情報やその他の最新情報を発信ことでエリアに集う人々同士のつながりを強化を図っています。さらに、猛暑には日陰を通って歩けるルートを表示する等、人々の快適な生活を応援しています。アプリ利用者の行動分析により、よりよい未来構築のための計画ができることも、この自己管理型スマートシティの特長として紹介されました。これらのコンセプトは全て、私たちの生活そして社会を常によりよくしていく「継続的なアップデート」および「再デザインのサイクル」の考えに基づいているとのことです。

後藤氏による講演の後は、パネリストによるパネルディスカッションが行われました。このディスカッションで特に印象的だったのは、参加したパネリスト全員が、現在世界が直面している様々な問題の解決の糸口が日本およびドイツが持つ既存の技術にあると見ている点です。「簡単な方法で新たな解決策を生み出す」というのが、パネリストたちの共通認識としてあるように感じました。さらに、国際的な協力と知識の交換がよりよい共存社会の構築に欠かせないという点がこのパネルディスカッションによって再確認されました。

早稲田大学のディマー教授は、スマートシティが社会の多様性を支援することの重要性を強調しました。具体例としては、さまざまな人にとってスマートシティが集いの場となることや、全ての市民が発展に貢献できる仕組みづくり等が取り上げられました。ディマー氏の発言の中で特に印象深かったのは、「技術のために技術を使うのではなく、まず実際の問題を特定し、それに対する具体的な解決策に取り組むべきだ」というものです。

多摩美術大学の堀内教授は、スマートシティ実現のためのローカルアプローチとして、地域レベルでの市民間の協力の確保と、リソースおよびスキルの共有を主張しました。例えば、一人一台エアコンを使用する代わりに、涼しいまたは温かい場所に集まるアプローチ(ホットシェアリングとコールドシェアリング)によって、消費エネルギーの削減を地域レベルで実現できます。ソーラーエネルギーの共有等リソースの分かち合いや、地域市民が一つの場所に集まることで、市民間の交流も盛んになり地域の活性化に繋がることもこのアプローチの良さです。

京都大学のシュメッカー准教授は、未来の輸送経路についてお話ししてくださいました。シュメッカー准教授は、自動車が使われなくなる日はそうそうに来ないだろうと見ているものの、マイクロモビリティおよびモビリティ・アズ・ア・サービスのコンセプトは、彼の15分都市のコンセプトにおいて中心的な役割を果たしていると語りました。

パネルディスカッション後に、司会を務めたDJW事務局長のアンネ・ポムゼル氏より登壇者へいくつか質問がありました。その中で、人工知能(AI)に関する質疑に対し後藤氏は、AIが今後センサーやアプリによるスマートシティ実現へ向けたデータ解析に果たす役割は大きいと話しました。また、AIの利用について明確な枠組みとしてのガイドラインを作成するために、AIに対する規制強化の必要性を強調しました。

さらにイベントの最後には、トロントでのスマートシティの失敗事例を踏まえ、スマートシティの市民や利用者にとっての快適さが開発速度よりも重要だということが再確認されました。住みやすく人気のあるスマートシティを作り維持するためには、そこで暮らす人々のプライバシーに関する懸念を真剣に受け止め、考慮する必要がありそうです。

DJW副理事長の成川氏により、今回のシンポジウムで話し合われた内容および結果の総括が行われ、2023年秋のDJWシンポジウムは幕を閉じました。その後は大広間で懇親会が開かれ、シンポジウムの登壇者および参加者からさまざまなお話しを聞くことができました。

2024年のDJWシンポジウムも楽しみにしています。